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解りやすさの罠

東進の授業は「わかりやすさ」がウリの一つです。

それまで分からなかったり、曖昧だったりした内容が、日本を代表するトップ講師の授業によってしっかりと理解できるようになります。

今までも多くの生徒が東進の授業を受けて志望大学に合格していきました。

しかし、この「わかりやすさ」も一長一短ではないかと思うのです。

 

「わかりやすさ」というのは離乳食のようなものです。

それまで食べられなかった物をグチャグチャにすり潰して与えることで食べれるようになります。

しかも、今まで知らなかった味だったりして、食べてみたら意外と美味しいなんて事もよくあります。

初めて食べた味に夢中になって気が付いたらゴクゴク飲むようになることもあるでしょう。

しかし、離乳食はあくまでも離乳食ですので、いつまでもそればかり食べているわけにはいきません。

なぜなら、入試問題というのは半固形ではなく、恐ろしく硬い煎餅として出されるからです。

それまで離乳食しか食べたことのない赤子に煎餅をかみ砕くことなどできようはずもありませんから、どこかのタイミングで固形物を食べる訓練をはじめなくてはなりません。

 

「わかりやすさ」には「論理の積み重ねによるわかりやすさ」と「単純化によるわかりやすさ」の2種類あります。

前者は論理展開が明快であったり、整理された状態で教えられることで理解がしやすくなる「わかりやすさ」です。

この種の分かりやすさを生み出すためには、生徒に伝える順番が大切になると同時に、非常に時間がかかります。

なぜなら、論理を展開するにあたって、最低限知っておかないといけない知識や情報があり、場合によってはそこから教える必要があるからです。

生徒によってはそれを「わかりにくい」と感じてしまうこともあります。

本人が理解しきれないだけであって、理解できる生徒にとってはとても「わかりやすい」のですが、その本人にとって「わかりにくい」のは事実なので仕方ありません。

そんな時にもう一方の「単純化によるわかりやすさ」が活用されます。

本来は様々な条件を組み込んだうえで考えなくてはならない事柄を、最低限の条件だけ残して後はごっそり省略してしまう方法です。

考えなくてはならない事項が減ることで人の理解は何倍にもスムーズになるため、多くの生徒が「わかりやすい」と感じます。

そもそも、小中高で習う内容の多くは本来よりもかなり単純化された状態で教えられます。

例えば、物理の力学では「なめらかな面」など、本来あり得ない状態を前提に問題が作られますし、空気抵抗などは基本的に考慮に入れられません。

これは、そこまで考えだすととてもじゃないけど理解ができない状態に陥ってしまうからです。

ただ、この「単純化によるわかりやすさ」こそ、上で述べた離乳食にあたり、時に毒物のように中高生の学力に悪影響を与えます。

繰り返しになりますが、受験では硬い煎餅を食べなくてはならないのです。

しかし、離乳食ばかり食べることに慣れた生徒は硬いものをかみ砕く歯が育っていませんから、当然ながら、模試や受験本番で合格点を取ることはできません。

彼らが志望校に合格するためには、どこかのタイミングで「わかりにくい事柄をわかりにくいまま理解をする」ことが必要となるのです。

すんなり理解できる生徒もいますが、多くの場合はとても時間がかかります。

それまで順調に進んでいた勉強が突然とん挫してしまうこともあります。

「わかりにくい」ことから逃げて、「わかりやすい」ことだけをしようとする生徒もでてきます。

しかし、その壁を越えた時、生徒たちはぐんぐんと成長し始めます。

我々は大人はその時が来るまで生徒を励まし続けなければなりません。

 

中高生の皆さん、「わかりやすさ」は大切なことですが、依存してはいけません。

いずれは「わかりにくい」ことにも挑戦しなくてはなりません。

皆さんが、「わかりやすさ」中毒になることなく、困難な問題にも果敢に戦いを挑むことを期待しています。

大丈夫、諦めなければ絶対できる。